千代寿虎屋(株)
(山形県寒河江市南町)

 
 

― この土地は酒造りに適しているのですか。
 そうです。水と米という原料面だけみても酒造りに好適な風土なのです。先の大沼保吉が寒河江に進出したのも酒造好適米である「豊国」の産地であったことと、寒河江の伏流水は亜硝酸を豊富に含んでいるため吟醸酒作りに好適であることはよく知られています。

― たしかに「豊国」原料のお酒はソフトで飲み易く味に特徴がありますね。
 そうでしょう。「豊国」は軟質で蛋白質含有量の少ない米ですし、精米技術面でも扁平精米にして米の形状に沿った削り方をしていますから酒はソフトになります。
 当社は、特に米を重視していて「豊国」だけでなく「美山錦」、「出羽燦々」も契約栽培をしていますが、これは「地場の米を使用して地元で造る地酒」をモットーとしているからです。昨年秋のJA主催の酒米品評会で当社の蔵人、渡辺君が栽培した「美山錦」が見事優秀賞を射止めました。このように酒米を栽培している人が酒造りをするのが理想ですね。酒造りへの愛情のもち方が違ってきますから。

― それにしても日本酒の需要の縮小には歯止めがかかりません。当地の市場はいかがですか。
 以前は当社の出荷の97%以上は県内市場向けだったのですが、このシェアは落ちていて現在は80%程度になっています。しかも大手のレギュラー酒攻勢が激しく、県内メーカーは苦戦を強いられています。わが社の売上げも横這い状態が続いていますが、だからといってパック酒をやるつもりはありません。三増酒は早くから止めていますし、これからもやはり付加価値の高い分野を狙います。とにかくお酒に個性を出すことが基本方針で、そのためにもよい酒米が必要なのです。


丈が高く、褐色の「豊国」は、ひときわ目立つ

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 日本酒の需要低落にはいぜんとして歯止めがかからない。この厳しい現実の中で県内市場を主戦場とする地酒メーカーは、どのような方向を模索しているのだろうか。このような問題意識を抱きながら訪ねた先は、さくらんぼの主産地として知られる山形県寒河江市の市内にある「千代寿虎屋」である。
 同社は、東北清酒鑑評会で昨年、一昨年と2年続けて吟醸酒と純米酒の2部門で金賞を受賞した。平成年間だけでも春秋通算21回金賞受賞という。醸造技術にかけては折り紙つきの蔵である。その先頭に立つ角田杜氏は、一ノ蔵・浅見社長の従兄弟だそうだ。
 応対してくださったのは、大沼保義社長、ご子息の大沼寿洋専務、そして醸造試験所出身の技術者でありながら杜氏を名乗っておられる角田篤弘氏である。



左から角田篤弘杜氏、大沼保義社長、大沼壽洋専務

― まず蔵の沿革からお伺いします。随分おめでたい言葉が重なっている社名ですね。
 「虎屋」の創業は、元禄時代(1696年)と伝えられていますが、幕末には家運が傾いていました。それを再興したのが8代目の大沼保吉で、山形と寒河江に蔵を作りました。大正に入ってから寒河江の蔵が分離独立し、合資会社虎屋寒河江酒造工場の社名で新たにスタートしたのです。戦後になって千代寿虎屋酒造となり、さらに1994年に現在の社名に変更しました。